雲のむこう、約束の場所【感想】

TSUTAYAのDISCASで雲のむこう、約束の場所のDVDをレンタルして観ました。
なかなかレンタルできず、ウェイト機能を使って5日目にようやくレンタルできて、発送が確定した時は嬉しかったです。
見終わって、監督の新海誠氏はポスト宮崎駿になる資質を持った監督だと確信しました。
前作の短編「ほしのこえ」も良かったですが、今回の長編「雲のむこう、約束の場所」はより一層素晴らしかったです。宮崎駿監督の「ハウルの動く城」を抑えて第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞したのも納得できます。
昨日寝る前に見たのですが、登場人物にすっかり感情移入してしまって興奮したせいか、なかなか寝付くことが出来ませんでした。
こうしたことは、学生時代に「天空の城ラピュタ」を観た時以来です。
一回観ただけで返却するのが惜しくて、今日もう一度観てしまいました。

まず、映像自体、ディテールまでしっかり描かれていて、非常に良く仕上がっていると思います。
駅の電光掲示板とか、居酒屋のメニューとか、さらっとべた塗りとかニョロニョロ線で流してしまってもおかしくないところが、ちゃんと描写されています。
これが最初から最後まで続くのですから、感動です。

映像とマッチングした音楽も、観直して(聞き直して)みると非常に効果的です。
バイオリンの響きが良いですよね。
年甲斐もなく、「自分もヒロキのようにバイオリンを弾けたらなぁ」と思ってしまいました。
# 調べてみたら、サイレントバイオリンは安いもので5万円台からあるようですね。
# 小説を読んだところタクヤは親から「これでテレビを買いなさい」と送られて来たお金でサイレントバイオリンを買ったようですが、流石にテレビよりは高いです。

次に、ストーリーがよく練られています。
主人公ヒロキが大人になった時の回想シーンから始まるのですが、中学、高校と順々に語られており、登場人物たちの成長の過程をトレースすることになるので、スムーズに理解できます。これは、はからずも、大人が観ても、中学生や高校生が観ても感情移入できるようにする効果があると思います。
時代設定はほぼ現代で、東京や青森の風景はほぼそのまま描写されています。隣国の南北朝鮮を模した北海道と本州の分断という想定も含めて、日本人ならば(よほどの世間知らずでない限り)共感を覚えるものでしょう。
また、前半は我々の日常で起こるようなことを忠実に描写し、伏線を張りつつ、途中からSF色が少しづつ織り込まれて来るあたりも、観ている人はぐんぐん引き込まれて行きます。
ところどころコミカルなシーン(繰り返しハモるところとか)が入っているのも、息抜きになって良いです。
感動的だったのは、サユリの病室でヒロキとサユリが再会するシーン、そしてサユリがヴェラシーラの中で目覚めるシーンでしょうか。

それと、キャラクター達が皆、良い個性を持っていると思います。
悪役が出てこないというのもこの作品のポイントだと思います。
登場人物が少なく、メインとなるヒロキ、タクヤ、サユリに関しても家族がまったく描写されていませんが、その分余計なノイズに惑わされないで済みます。
個人的には、サユリが素敵だなと思いますね。
冒頭の、サユリが教科書を音読している最中に左耳に掛かった髪に触るしぐさとか、何気ないところまで女の子らしいしぐさがしっかり描写されているのが素晴らしいです。
これは私が男性だからかも知れませんが、ヒロキとタクヤが飛行機を作っていると知った時の「すご~い、飛行機」と声を出すシーン、そして、蝦夷の巨大な塔に飛んで行きたいと聞いた時の「私も一緒に行きたい。連れてって」と言うあたりは、ヒロキとタクヤのモチベーションの向上にすごく役立ったことだと思います。
ヒロキもタクヤも前からサユリのことは気に掛けていたのだと思いますが、サユリからあのように言われたら、普通の男の子だったら鼻の下を伸ばして張り切ってしまうでしょう。
サユリがいなくなってから飛行機作りをやめてしまったのは、サユリとともにモチベーションも去っていったからだと思います。
また、そのまま大人になって行ってしまうと三角関係になってヒロキかタクヤのどちらかが悲しい思いをしそうでハラハラするところ、タクヤのほうにはマキという年上の女性をおくことで、ヒロキとサユリだけの関係に誘導するところも、観ていて安心できました。

またストーリーの話に戻りますが、高校3年生になって、ヒロキとタクヤは、サユリを救うのか世界を救うのかで喧嘩してしまいますが、すぐに仲直りします。
そういうのも、友情って良いなあと自然に思えて良いです。

最後に、一つだけ残念に思えた点を挙げると、この作品は、見方を変えてみると「テロを正当化」していることです。
開戦されたとは言え、非軍事施設である隣国蝦夷の中心にある巨大な塔を、飛行機ヴェラシーラに乗ったヒロキが爆弾で破壊してしまったわけです。
もちろん、「放っておいたら位相変換が進んで世界が平行宇宙に飲み込まれてしまう」というのは客観的予測では正しいのでしょうけど、だからと言って、燐国内の巨大な塔を爆破した行為は、一般に言うテロと背中合わせです。
この点だけが、微妙でした。

近々公開される新海監督の最新作「秒速5センチメートル」は、劇場に足を運んで観ようと思っています。
公開が待ち遠しいです。
これからも、新海誠監督にはどんどん長編映画を製作して行って欲しいですね。

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