主婦業、年1500万円に相当

ちょっと前のものですが、Yahoo!ニュース - 時事通信 - 主婦業、年1500万円に相当=裁判官にも匹敵 - 米社試算という記事が出ていました。
これは、あまりに恣意的な数字ではないかと思います。

 【シリコンバレー3日時事】炊事洗濯から育児までこなす専業主婦の働きは裁判官並みの年俸13万4121ドル(約1520万円)に相当―。雇用情報を提供する米サラリー・ドット・コム社は3日、母の日(14日)を前にこんな試算を発表した。
 主婦の作業時間は週91.6時間と、会社の平均就労時間の2倍以上の激務。同社は、保母や料理人、家政婦、運転手など主婦がこなしている主な役割10項目について、それぞれの作業時間から得られるべき賃金を積算した。
試算の詳細が公開されていませんが、上記の文脈と試算結果から想像するに、以下のような計算をしたのではないでしょうか。

・掃除、洗濯に3時間掛かった。これを家政婦にやってもらった場合、支払う金額はいくら。
・子供の世話を3時間した。これをベビーシッターにやってもらった場合、支払う金額はいくら。
・食事の準備に2時間掛かった。これを料理人にやってもらった場合、支払う金額はいくら。
・旦那を車で迎えに行った。これを運転手にやってもらった場合、支払う金額はいくら。
・etc.

これらの合計で1,500万円と言うのなら、数字的にはほぼ納得できます。
しかし、そんな試算に、一体何の意味があるのでしょうか。
すべての主婦は、年収1,500万円相当の仕事をしているとでも言いたいのでしょうかね。

そして、この試算には、経済的に大事な視点が抜け落ちています。

支払われるべき金額と、得られる金額は、等しくないという点です。
中間マージンと言うか、管理費と言うか。
世の中で、専門職の人に作業を依頼してその結果10,000円支払ったとしても、当の作業者の懐に入るのは5,000円といったところでしょう。
この試算には、そうした観点が入っていません(入っていたら、ものすごく高い時給を設定しない限り、1,000万円を超えるはずがないです)。

単純な例として、労働時間を半分にして、具体例を挙げて考えて見ます。
家政婦、週45時間労働で、普通、年収750万円になるでしょうか?
働く家がよほどのお家柄で、よほどスキルと経験のある家政婦が求められた場合なら、週45時間で年間750万円の収入を得られる可能性を否定はしません。
でも、一般的な家政婦さんであれば、そんなにはもらえないですよね。
他の職業、例えば保母さんにだって、同じことが言えます。

付け加えると、主婦業として作業をこなせることと、労働対価を得られるプロとして作業をすることに関しても、技術レベル的な差があることも考慮すべきでしょう。
主婦であれば、多少の手抜きは許されます。
しかし、プロとして従事するのであれば、手抜きは基本的に許されません。
そうしたことが考慮された結果の試算とは、到底言い難いですね。

 同社サイトでは、子供の数や家事の時間を入力すると、それに相当する年俸が表示されるサービス「母さんの給料明細書」も提供。同社関係者は「母親の仕事がいかに大きな経済的価値を社会にもたらしているか、知ってもらえれば」と話している。調査は母親400人を対象に実施した。
上述した理由から、はっきり言って、まったく客観性のないサービスですね。
こんなサービスによる試算結果を元にして、世の女性(主婦)が「自分はこれだけの価値ある労働をしているんだ」と言う金額の根拠にされては、残業・休日出勤をしても年収1,000万円以下の男性のほとんどは、とても納得できないでしょう。

感覚的に納得できないと言うことは、試算に考慮漏れがあるか、あえて目をつぶっている部分があるということです。
そんな試算結果を公開したり、それを新聞で報道したりするのって、恥ずかしくないのでしょうかね。
今回のは時事通信ですが、メディアには、単に報道するだけでなく、報道するに値する(客観性・信憑性のある)ニュースかどうかを吟味した上で報道して欲しいものです。

※注: 誤解しないでいただきたいのですが、私は、主婦の労働に対して経済的価値を認めていないわけではありません。引用した記事の試算結果が客観的にも経済的にもあまりに意味のないものであることを指摘しているだけのことです。

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