消費者金融利用時に生命保険加入で遺族が提訴は筋違い

asahi.com: 消費者金融利用時に生保加入 「命を担保」遺族提訴へ - 社会という記事が出ていました。
内容が内容だけに、正直なところ、ブログのテーマに取り上げて良いものかどうかかなり悩みましたが、思い切って書いてみることにします。
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始めに、私のスタンスですが、消費者金融に対する私のイメージは、極めて悪いです。
ゼロ金利のご時世に、法定内とは言え暴利を取っているわけですから。
自分は、利用したことはありませんし、今後も絶対に利用するつもりはありません。
ここ数年、消費者金融が好調で、電車内の広告やテレビCMに露出していることに、非常に不快感を抱いていると言えます。
そういう心境の下で、以下、私見を述べます。

 消費者金融大手「アイフル」(京都市)などからの借金を抱えて自殺した兵庫県明石市の女性(当時67)の長女(45)が、「母親がアイフルを受取人とする生命保険に加入させられ、死後に死体検案書などの提出を求められて精神的苦痛を受けた」などとして、同社に総額330万円の損害賠償などを求める訴えを23日、神戸地裁に起こす。この保険は「消費者信用団体生命保険」で、大手消費者金融では顧客に金を貸すと同時に加入させている。原告側は「事実上、命を担保にしており、厳しい取り立てを助長する」と指摘している。
確かに、厳しい取立てを助長する可能性はありますね。
しかし、本件の自殺した女性が厳しい取り立てにあっていたとは、記事からは読み取れません。

「助長する可能性があるから無効」という論拠は、まず成立しません。
なぜなら、これが成立するなら、契約後1年経過した後の自殺なら支払われる生命保険契約(私のがそうです)は、すべてが無効という論法がまかり通ってしまいます。
かつてのテレビドラマ「氷の世界」ではないですが、事故死でも自殺でも、契約後一定期間経過していれば保険金が支払われるのは、保険業界では常識です。

 訴状などによると、女性は04年8月、自宅で首をつって自殺。05年6月、アイフルが長女側に、女性の債務の残元金約50万円を同保険の保険金で回収するため、受け取りに必要な死体検案書などの提出を求めたという。長女側は「見るのも苦痛な死体検案書の提供を要求されて精神的苦痛を受けた」としている。
原告の女性は、基本的なことを忘れているのではないでしょうか。
お金を借りたら、ちゃんと返すのが人としての義務です。
返済が滞ったら「ちゃんと返して下さい」と脅迫に当たらない範囲で督促するのは、貸し手側の権利のはずです。

そして、借り手が事故や病気で死亡して回収できなかった場合に備えて「消費者信用団体生命保険」に加入させるのは、回収不能リスクへの対応策として、当然のことではないでしょうか。
保証人なしでお金を借りるのですから、業者側にそれくらいの保険は認められるはずです。
母親の自殺によって50万円が回収不能になり、その回収に充てる保険金の請求に必要な書類を遺族に請求するのも、当然のことです(これは、身内でなければ入手できないものでしょうから)。

原告の女性がすべき行動は、「母が借金をして返さなかったことは申し訳ありませんでした。死体検案書をお渡ししますので、返済の免除をよろしくお願いします」と消費者金融業者にお詫びすることのはずです。
「精神的苦痛を受けた」と消費者金融業者を訴えるとは、筋違いも甚だしいです。

 長女側は、契約時の書面に加入先の保険会社名や詳しい契約内容の説明がないため、生命保険加入は同意がなく無効だと主張。保険の幹事会社を務める明治安田生命保険とアイフルに対し、保険金請求権が存在しないことの確認も求めている。
契約時の書面が公開されていないので一概には言えませんが、仮に記載がなくても「この書類は、あなたにもしものことがあった場合に生命保険で借金の残りをなかったことにするための契約書類です」という説明が行なわれており、それに納得して署名・捺印をしたと状況的に認められれば、書面は有効なはずです。
そもそも、身内が借金を返さずにいて、その肩代わりもせず、さらにはそれをカバーする保険契約の存在まで無かったことにしようとは、公然と借金の踏み倒しを正当化しようとしているようにしか思えません。
私には、原告女性も、その弁護士の論理も、まったく理解できません。
この裁判は、原告側の完全敗訴となると予想しています。


最後に、この件の背景を私なりに推測します。

自殺した女性の借金の残りは50万円とのこと。
人によって50万円の重みは違ってきますが、長女に相談して金策をすれば、時間は掛かっても返済は不可能ではなかったでしょう。
自殺した女性がそれをしなかった理由は、長女との間が疎遠(あるいは険悪)になっていて、とても借金があることを言い出せなかったからと考えられます。
長女の側も今となっては「相談してくれれば、何とか返済を手伝ってあげられたのに」という思いはあるのでしょうけど、事実として、母親は長女には相談せずに死を選びました。
酷な言い方をすると、母親の経済状態を気にしてあげなかった長女の態度も、母親の自殺の原因の一つであり、母親を自殺に追いやったのは借金の額ではなく、相談すべき相手がいないと言う孤独感だったのではないかと私は思います。

長女は、きっと、そのことを受け入れられなかったのでしょう。
そして、自分以外の誰かに責任をなすりつけることで、自分の気持ちを楽にしたかったのだと思います。
その矛先を向ける相手として選んだのが、自殺との関連があった消費者金融業者というわけです。
生命保険契約がなかったことにして、自分も慰謝料をもらい、消費者金融業者は悪だと世間に知らしめることで、自分の気持ちの整理をつけたいのではないか、と私には感じられました。


最後に、繰り返しになりますが、消費者金融業者は、私は大嫌いです。
街中でティッシュ配りをしていても、絶対に受け取りません。
それくらい、消費者金融業には否定的です。
しかし、今回の原告となる長女の行動は、母親の自殺のショックから抜け切れず、単にそれを誰かに償わせようとしているだけの行為に映りました。

皆さんは、どのように感じられましたでしょうか。

いずれにせよ、私自身は、身内とは時々連絡を取り合って、元気にしているか、消費者金融に手を出したりしていないか、気配りを忘れずにしていたいと思います。

末文になりましたが、自殺を選ばざるを得なかった女性の方のご冥福をお祈りして、本記事を締めくくらせていただきます。

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