「パソコン起動時の電気代が2時間分の電気代に匹敵」という説は誤り

昨夜、パソコンの電気代がどれくらいなのか、ネットで調べていたら、様々なホームページやブログで次のような記述が散見されるのに気が付きました。

パソコンを起動させるのに使われる電気代は、2時間立ち上げっ放しにしていた時の電気代と同じなので、2時間以内にパソコンを使うつもりならば、電源を切らないでいたほうが電気代を節約できる。
検索サイトで「パソコン 電気代 2時間 起動」と入力すると、けっこう出て来ます。
あえてURLは晒しません。

「ふーん」と思った方もいらっしゃるかと思いますが、これは俗説で、端的に言うと真っ赤な嘘、デマカセです。
これを信じてパソコンの電源を入れっ放しにするのは、環境にも家計にも良くないので、やめましょう。

まず結論として、私の主張のポイントを書きます。
【俗説の間違った主張】パソコン起動時1分間の電気代が、アイドル時の2時間の電気代に相当する。
【私の主張】パソコン起動時1分間の電気代は、アイドル時で2分かそこらの電気代にしか相当しない。

以下、消費電力の数字を用いて、簡単に説明します。(私の主張と、俗説を書いた人の主張とを、混同しないよう、くれぐれもお願いします。)
まず、基本的な知識として、100Wの電球を10分間つけた場合の電気代と、50Wの電球を20分間つけた場合の電気代がほぼ同じであることは、中学卒業程度の理科の知識があれば、納得できる話だと思います。(100(W) * 10(min) = 50(W) * 20(min) がイコールで成り立つことは、理解できるでしょう。この、消費電力と時間の式を、ちょっとの間だけ、頭の隅に置いておいてください。なお、本記事では、パソコンの起動時間を1分と想定し時間に関しては「分ベースで何倍か」で書いています。専門の方からWh,Wsで書いていない点から「計算違いでは」という指摘を受けますが、一般の読者にはWh,Wsはあまり馴染みがないだろうとの考えに基づいて、本記事ではあえてWh,Wsに換算した表記を避けています。)
ここで、パソコンの通常時の消費電力を50Wとして、パソコンの起動に1分間(すなわち、2時間の、120分の1)掛かるものとしましょう。

以下は、背理法の要領で説明していますので、部分的に取り上げて私の主張と勘違いしないよう、十分に注意して下さい。

上記の「パソコンの起動時の電気代が2時間分の電気代に匹敵」説が仮に正しいと仮定してみれば、パソコンの起動に要する1分の間の消費電力は、上述した消費電力と時間の式から、単純計算で、50W×120で6,000Wになっている(注: 左記の×120の意味は、「2時間が1分に集中したら120になる」という換算です)と俗説の主張者が主張していることになります。(これっておかしいと思いますよね。←2010/6/10 追記)

次に、このおかしさを身の回りの出来事として理解できるよう、一般家庭の電気契約を例に挙げて示します。
一般家庭での6,000Wは、100V電圧であれば、60Aです。(なお、我が家は普通の4LDKで、40Aの契約です。)
さらに、パソコン起動時の1分間の間ずっと電流値が60Aで一定というわけではなく、波があるでしょうから、ピーク時には100Aくらいの電流が想定されることになります。ちなみに、よくある500Wクラスの一般家庭用電子レンジの電流は5Aですので、100Aというのは電子レンジ20台分です。
そんな電流を一般家庭で1分間も流してみたら、何が起こるでしょうか?
豪邸ならいざ知らず、一般的な家庭ならものの数秒でまず間違いなくブレーカーが落ちるでしょう。
そんな電流がパソコンの100Vの電源部で流れて、もしもブレーカーが落ちなければ、パソコンに内蔵されている電源ユニットもしくはパソコンの外の電源ケーブルは加熱してビニールが溶けるか、最悪発火して火事になるような、そのくらいの大電流なのです。

以上、背理法を交えて書きましたが、要するに、パソコン起動時の1分間の電気代が、パソコンに2時間通電した時の電気代に匹敵するなんてことは、ありえません。

ちなみに、パソコンの起動時の電流値を実測した結果は、エコワットとクランプメーターによるパソコンの消費電力測定に掲載しています(2008/3/2追記)。

さて、この俗世の発端として考えられるとすれば、機器の寿命でしょうか。
「パソコンを1回起動すると、パソコンに2時間通電していた時と同じくらい、パソコンの部品の寿命が短くなる」という話であれば、私も納得します。
ハードディスクあたりは、スピンダウン/スピンアップが負荷になりますので、もしかしたらそうなのかも知れません。
で、「寿命」という言葉を、誰かが「電気代」と取り違えてそれが広まった、という可能性もあります。

あるいは、誰かがエコワットのような測定精度の低い電気代測定器で思いっきり計り間違いをしたのを、疑わずに事実として流布したのかも知れません。

ブログが広まって、個人による情報発信が容易になったのは良いことである反面、このような俗説がまことしやかに語られるというのも、問題だなと思う今日この頃です。

2010/6/10 追記: 今後、この記事にコメントする方へのお願い
記事本文に加えて、これまでに寄せられたコメントにも一通り目を通した上で、お立場の明確化をお願いしたいです。具体的には、コメントの冒頭に、「パソコンの起動時の電気代が2時間分の電気代に匹敵」という俗説に対して、賛同なのか反論なのか、立場を明確にしていただけるとありがたいです。
私が「俗説が正しいと仮定したら、こんなに大きな消費電力があることになりますね、そんなはずないでしょう?」と背理法のコンテキストで書いているところを、前後をカットして部分的に取り上げて、私が「こんなに消費電力があるのは普通にあることだ」と主張しているかのように受け止めて、反論の形でコメントする方が後を絶たず、正直、辟易しています。
また、単位系でWh,Wsをあえて使っていない理由も、本文中に追記しました。

■2011/5/23 追記
上記で取り上げているのは、電源を切らないでいる状態、すなわちアイドル状態のことです。(例示したワット数から、誤解する方はいないと思いますが、念のため。)
3.11後、初めての夏に向けた節電のために、つい先日、マイクロソフトも数値を公表していましたが、「パソコンの起動時に掛かる電気代がスリープ状態(スタンバイ状態)の2時間分の電気代に匹敵」ということであれば、パソコンによってはあながち間違ってはいないようです。
間違っているのは、「パソコンの起動時に掛かる電気代がアイドル状態(立ち上がっている状態)の2時間分の電気代に匹敵」です。
もしかしたら、はじめに公言した人は、アイドル状態とスリープ状態(スタンバイ状態)を混同していたのかも知れませんね。
私がこの記事を書いた2007年の始めであれば、スタンバイ状態というのは、今ほどは知られていなかったと思いますし。
ちなみに、このブログでスタンバイ状態について取り上げた記事は、2005年頃からありますので、そこそこ知られていたとは思いますが。

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■他のサイトの関連ページ(冒頭に書いた、晒し物にする記事は載せていません)
パソコンの消費電力を調べてみる - Open MagicVox.net
パソコンライフ・インプレッション: パソコンの電気代(結果発表)